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生きている実感-安全が危険で危険が安全になるということ-
2010/08/09(Mon)
生きのよい状態、生きている実感というのは、自分が生きる上では最重要のものに入る。他人がうらやましがる条件をそろえていっても、自分が気持ちよく過ごせなければ何の価値もない。

「山歩きなんて自分から死にに行くようなもの。やめときなさい」というのが私が山歩きを始めた頃の周囲の反応だった。以後10年余りに起こった災難や事故はいずれも山とはまったくの無関係。数年前の福岡の地震のときなどは九重にいて、ふつふつとさかんに煙を噴き出す硫黄岳の山肌をじっと眺めていた。「地震です。家の中ぐちゃぐちゃ」という文がメールで送信されてきて「一時公園に避難します」「余震がきています」…。次々と送られてくる送信文は家人のあわてぶりを伝えてくる。町のほうが、どこよりも安心であったはずの家の中のほうが、山よりもよほどこわいっていうこともあるじゃないかと一人で苦笑した。
先週山谷に滞在したことについては周囲の反応が分かれた。「なぜそんな危険な所に行くのか」という意見と、「おもしろそうだからやれよ」という意見。どちらも山谷は危険というのがベースにある。しかしそんなふうに言われると、危険な場所とか安全な場所とかいうけれども危険ていうのは何だろう、安全ていうのは何がどう安全というのだろうと、そんな疑問がわいてくる。

山谷は危険だという考えの裏には、自分たちが住んで活動しているエリアは安全だという考えがある。しかし安全と思われる所でも日々いろんな事件が起きている。そしてまた、安全きわまる場所でも自分にとって危険なことが起こりつつあるということもあるだろう。たとえば生活に特別困ってもいない、仕事が嫌いというでもなく、毎日ほどほどに忙しく楽しく過ごしている。それでもむなしい、死ぬほど息苦しい。そういうことはないだろうか。ぜいたくな話かもしれないが、もともと人間はぜいたくにできている。パンがなければ生きられないがパンだけでも生きられない。山歩きを始めたころの私は確かに行き詰まっていた。エサを十分に与えられている家畜もしくは動物園の檻の中で毛並みを悪くしている不活発な獣になった気分で過ごしていた。設備の整った囲いの中では文句も言えず、幸せに過ごしてみせなければならなかった。周囲の目には私はじゅうぶん日常を楽しんでいるように映っていたはずで、それがわかるだけになおのこと、つらかった。

出かける前はイヤでイヤでたまらない感じもある。いつものことだが旅に出る前は安定した日常から離れがたい気持ちと、行く手に待ち受ける予測不能なものに対して軽い緊張におそわれる。しかしそれらを受け流して出かけてゆけば、おのずと集中が高まって、滞在から戻ったときには出かける前よりもやけに威勢がよくなっているのがわかる。安定は滞りを生みやすく、自身で気づかないままマンネリに陥り、バランスはいつしか崩れだす。安全な場所がいつまでも安全とは限らない。安全は与えられるものではなく、つねに自分で見出していくもの、つくり出していくものといえるかもしれない。
どんなに危険といわれる場所にでも出かけていく人はいる。わざわざ危険を求めるために出かけていくということも、ないわけでもなかろうがそれだけではない。それぞれがその時一番生き生きできる場所へと向かっているのではないだろうか。どんなに危険といわれる場所だって年がら年中危険なことばかり起きるわけじゃない。人間の住むところにはどこにだって人の日常というものがある。危険な場所と決めつけてしまえば、危険な場所にも設けられているはずの安全域は見えなくなる。安全な領域をどれだけ見出していけるかで、行動の自由度が小さくもなり大きくもなる。自分なりの工夫やカンも必要になってくる。そこに自分の持てる力を引き出し、生き生きとした状態を回復する機縁もある。生きている実感はまさにそこに、ある。
生きのよい状態、生きている実感というのは、自分が生きる上では最重要のものに入る。他人がうらやましがる条件をいくらそろえていっても、自分が気持ちよく過ごせなければ何の価値もない。こうして自分本位に、自分の快不快感覚に忠実に生きてゆくと、自分は確実にバカといわれる人間になってゆくだろう。単純なことをバカみたいに喜ぶ人間になる。そんな予感がする。そしてそれでいい。
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