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料金払ったお客を放送でたたき起こし掃除までさせる-旅という名の生活改善-
2012/12/07(Fri)
初めてユースホステルを利用したときの腹立たしさと不愉快を今もよくおぼえている。「二度と来るか!」と思った自分のごうまんさもしっかりおぼえている。
しかしその後も各地で利用するうちに、すっかりユースホステル式の行動が身についた。金を払おうと払うまいと、最低限の後始末もしたがらないような人間にはぜったいなりたくない。そう思うことさえあるくらいだから、人間どうなるかわからないものだ。
おかげで学生時代はどこに行っても評判よく受け入れてもらえた。ユースホステル式の私は「今どきめずらしいよくできた学生さん」とどこでも気持ちよく泊めてくれたのである。
自分が使わせてもらった場所は、使う前より断然きれい。トイレや風呂も使うたびに5分や10分くらいの掃除をする。寝場所のスペースや部屋も、まず先にお掃除。後にも、お掃除。体が勝手に動いてしまう。
「掃除しますので掃除道具ありますか」などという間抜けな質問はしない。滞在先の負担を増やせば掃除もワガママだ。これみよがしにやれば嫌味だから、掃除用の濡れタオルを持ち歩く。誰にも気づかれないようにさっさと掃除する。滞在日数が重なるうちに立ち入りするエリアも広がってどんどんきれいになる。

掃除はいまだに日本文化の重要な地位を占めていると思う。「掃除のできる人」は「人間ができている」として信用される。逆に「掃除しない人」はまったくもって相手にされないか、がっかりされてしまう。知人に世界を旅歩きしている人がいるが、この人は行く先々でまっ先に始めるのがトイレ掃除だ。見ていてこっけいなほど、どこのトイレも磨く。「よその土地から入って来た人間はまさに不審者そのものだ。旅人は短時間で一定の信用を得る技術を身につけるかつけないかで、旅先の待遇も決まるのだ」というのである。
しかし私の掃除行動は、恐らくきれい好きなためでないのはもちろんのこと、信用を得るためでもないと思う。
その場所を知りたいと思うと、私は掃除をしたくなるのである。
掃除は場についての重要な情報と手がかりをもたらしてくれる。
どんなものがどこに置いてあり、どのように置いてあるのか。なぜそのようでなければならないのか。
そこで生活を送る人の考えとか、考えなしとか。思いや好みやこだわり、もしくはこだわりなさなど。そういう目に見えない情報が随処に散りばめられているのである。家族関係や人間どうしの見えない関係なども、人のいない空間の中からだって、読み取ろうと思えば読み取れるはずである。

掃除をすれば生活空間を構成する一つ一つの要素に意識が集中する。空間を読み解くお掃除には、ほこりとか、油の汚れや机のしみ、ペンのラクガキとか、どうでもいいものも非常に重要だったりする。目に見えないあらゆる情報が手にとるように感じられ、掃除をするたびにその空間の読み解きが進む。
大企業の大量生産のものばかりで生活空間が充たされているのか、それとも人間どうしのつながりを感じさせる物があるか。台所の汚れを見れば油ものや肉を多く食べるかどうかもわかる。菓子のたぐいが散乱していれば、その部屋の主が体の不調をどの程度持っているかどうかもわかる。
「一宿一飯の恩は、一日二、三時間ていどの掃除・洗濯・料理」という形式で、私はどこにいてもお客さまではなく、そこの一員となれる。どこに何がどのように、どんな理由で置いてあるということを把握するお掃除は、基本的には遺跡の発掘調査と変わらないのだが、発掘調査と違う点は、読み解きを進めると同時に、他所者である私の手によって、そこに何年もあった人の生活の痕跡が拭い去られるということだ。そしてさらに他所者である私がより喜ばれ、受け入れられる秩序を考えるということである。私は二日三日もあれば、そこの空間のメンバーの一員の顔になっている。ひょっとすると、厚かましく空間を制するヌシのような顔になっているかもしれないから気をつけないといけない。

空間を読み解くことで空間は自分のものとなる。それが私なりの、空間を所有するということになるのかもしれない。お客様あつかいされる空間では、ふわふわの座布団をいくつも重ねたてっぺんに座らされているようで、どうにも居心地わるくなる。私はどこにいてもお客様ではいたくない。どこででも場を共有し、大切に思う一員でありたいと願うのである。
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